メタが示したコンピューターの未来
60年前…ある画期的な論文が発表されました。
私が産まれた時でもあり、日本は戦後間もない時にです。
そのタイトルは、『Man-Computer Symbiosis(人間とコンピュータの共生)』
著者は、アメリカ人の心理学者であり計算機科学者であるJ.C.R. リックライダーです。
コンピュータは人間の知性の延長である
というのがリックライダーの主張です。
また、「人間はノイジーで、帯域の狭い装置だ」
とリックライダーは書きました。
つまり、人間はすぐに気が散ったり、間違えたりする上に、一度に入力・出力できる量が少ないということです。
一方でコンピュータは「一本気で、制約のある」存在です。
コンピュータはトイレに行ったり、コーヒーを飲んだりするために立ち止まる必要がありません。
また、メールの通知に気を散らされることもなければ、
問題の解決策を思いつこうと廊下を歩き回る必要もありません。
(これらは私がこのブログコラムを書いた時、実際にしたことです…)
リックライダーは、コンピュータと人間が協働する未来を思い描いていました。
そして彼は、自然界の共生関係…たとえば昆虫がイチジクの木に受粉するあり方になぞらえたのです。
木と昆虫は生き残るために互いを必要とする…そんな例です。
リックライダーの論文が書かれた当時、存在していたのは巨大なメインフレームコンピュータだけでした。
その後、数十年の間にコンピューターはそのサイズが小さくなるだけでなく、より強力になっていったのです。
メインフレームはPCへと進化し…
そこからノートPCに小型化し…
さらにスマートフォンへと小さくなっていきました。
今や私たちは手のひらの中にコンピュータを持っています。
私のポケットの中のiPhoneは、アポロ11号を月に送り、また帰還させるために使われた巨大なメインフレームコンピュータよりも1億倍高速です。
今日では、スマートフォンはあらゆる場所にあります。
世界経済フォーラムによれば、2023年時点で、世界中で54億人以上が少なくとも1件のモバイル契約をしていました。
平均的なアメリカ人は、スマートフォンでのテキストメッセージ、通話、ソーシャルメディアの利用に1日5時間以上を費やしています
しかし、PCがスマートフォンに道を譲ったように、知的なデバイスとやり取りする新しい方法が、間もなく登場するでしょう。
そして今、私たちはリックライダーが描いた未来が、どのように現実になるかを目の当たりにしました。
そしてそれは、ある世界規模のテック企業が巻き起こしたものです。
その企業とは、メタ。
メタが設計したものは、見た目は少しゴツいスマートウォッチのようです。
出所:Reality Labs、Meta
しかしこの試作機には時計はありません。
フィットネスリングもありません。
そしてあなたに通知を送ることもありません。
しかし…
それは人間がコンピュータとやり取りする方法の次の進化を示しているとも考えられます。
なぜなら、部屋の向こう側から手を振るだけで、あなたのノートパソコンが動くからです。
手首をひとひねりすると、カーソルが画面を横切って滑ります。
指をつまむと、アプリが起動します。
空中にあなたの署名を描けば、あなたの名前が—文字ごとに—あなたのスマートフォンに現れます。
メタはこのデバイスを、去年『Nature』に発表された新しい研究論文の中で公開しました。
これまでウェアラブルについては何度か話してきましたが、これはカメラ付きの眼鏡よりもはるかに進んでいます。
何か特別なものを装着することなく、手の動きだけでコンピュータを操作できるのです。
しかし、それがいちばんの驚きというわけではありません。
本当のマジックは、あなたが指を動かす直前に起きるのです…
動かす「つもり」だけで
メタのこの新しいデバイスで注目するべきは、
「やりたいことを考えるだけ」で動作する点です。
あなたが動く前の意図を読み取る…
文字通り、あなたの筋肉よりも速く反応します。
メタの研究担当副社長であるトーマス・リーダン博士はニューヨーク・タイムズにこう語りました。
「実際に動かす必要はありません。動かそうと意図するだけでいいのです。」
それは、メタの新しいリストバンドが、脳から筋肉へと伝わる電気信号を読み取るからです。
つまり、あなたが指を動かそうと考えた瞬間に、このデバイスは反応します。
たとえあなたの指がピクリと動く前でも。
この驚くべき技術はEMG(筋電図法)と呼ばれます。
そしてこれは新しいものではありません。
実際、四肢のどれかを失った患者が、義肢を制御するのを助けるために、何年も前から使われてきました。
しかしメタが行ったのは、EMGと機械学習の融合…
1万人以上の人々の筋肉信号データでニューラルネットワークを訓練したのです。
それが、このデバイスを非常に反応良く、正確なものにしています。
そしてメタにとって決定的なのは、箱から出してすぐに使えるようにしている点でもあります。
このデバイスは、皮膚の表面に触れるだけで動作するのです。
そして一度訓練されると、システムは新しいユーザーが何をしようとしているのかを、たとえ身体を実際に動かさなくても認識できます。
とはいえ、このリストバンドがいくら印象的でも、それは思考と機械の融合という、はるかに野心的な目標に向けた一歩にすぎません。
メタの試作リストバンドは、あなたの思考を読むわけではありません。
代わりに、脳が筋肉に送る信号を読み取ります。
しかし、同じアプローチをとっていない人たちもいます。
例えば、イーロン・マスク氏が率いるニューラリンクは、もっと過激な賭けをしています。
それは脳へのインプラントです。
昨年、ニューラリンクは、サルが脳だけを使って画面に文字を入力する様子を公開し、話題になりました。
同社は最近ヒトでの臨床試験を開始し、脳の運動野と直接通信するチップを頭蓋骨の下に埋め込みました。
その狙いは、人々がコンピュータ、義肢、さらにはデジタル環境全体を…
考えるだけで制御できるようにすることです。
しかしニューラリンクが大衆市場で使われるようになるまでには、まだ何年もかかります。
この脳とコンピュータの融合への道は、手術や追跡検査、そして膨大な個別調整を必要とします。
最先端の技術であることは確かですが、今すぐ実用的というわけではありません。
また、シンクロンという別の会社は、中間的な戦略を試しています。
首の血管を通して小さなデバイスを挿入するのです。
これは依然として侵襲的ではありますが、脳外科手術よりはリスクが低い方法です。
しかしメタは、こうしたものをすべて回避しています。
頭蓋骨の中に入り込む代わりに、同社の研究部門であるReality Labsは、先ほどお見せした試作機のような、非侵襲でAIを活用したインターフェースの開発に注力しています。
これらのインターフェースは、筋肉信号だけであなたの神経系を理解できます。
それは「テレパシーでのタイピング」ほど魅力的に聞こえないかもしれません。
しかし脳外科医を必要とせず、この製品が迅速に市場に出る可能性を意味します。
とはいえ、メタが拙速に動いているというわけではありません。
2019年、同社はEMGベースのインターフェースを切り開いていた、リーダン博士が共同設立したスタートアップを買収しました。
つまり、こうした製品の開発には以前から取り組んできたのです。
最近変わったのは、その規模です。
AIの進歩、特にChatGPTで使われているものと類似のニューラルネットワークのおかげで、メタは今やEMG信号を比類ない精度で制御できるようになりました。
同社は人間の神経系という「言語」を学習したのです…
そしてその結果が、あなたの指よりも速く反応する試作機なのです。
筋肉を制御する信号は、筋肉自体が動くよりも速く伝わります。
そのため、このインターフェースは最終的に、タッチスクリーンやキーボード、さらには音声コマンドをも凌駕する可能性があります。
実際、カーネギーメロン大学の研究者たちは、すでに脊髄損傷の患者を対象にこれをテストしています。
これらの人々は手を動かすことはできませんが、なお筋肉信号の活動の一部は残っています。
それでもこのデバイスにより、動かそうとする意図だけで、入力し、閲覧し、コミュニケーションを取ることができます。
これは決して読心術のようなものではありません…
しかし、まるでそのように見えるのです。
メタの試作機は、魅力的な新しいガジェットです。
私はこれが、人間とコンピューターを結ぶ全く新しいインターフェースの初期形態を示していると考えます。
同社は最近、AIの取り組みで遅れを取り戻す中で、2026年に1000億ドルの設備投資を行う可能性を示唆しました。
このデバイスは、AIがモデルやチップだけの話ではないことを思い出させてくれます。
それらを私たちが使えるようにするインターフェースのことでもあるのです。
もちろん、研究から現実までの道のりはまだ長いのは事実です。
しかしこのリストバンドは、メタがコンピューティングの未来を再定義することに本気であることを示唆しています…
タッチスクリーンが思考に置き換わり、あなたの神経系がコントローラーになる未来です。
言い換えれば、テクノロジーと人間の境界が曖昧になる世界…なぜなら、私たち自身がインターフェースだからです。
このパラダイムシフトに私がワクワクするのは、それが巨大な投資機会につながるからです。
かつてのコンピューターが、メインフレームからPC、そしてモバイルへと移行したときと同じように。
本日も
Enjoy !!


【今日の学び】
「タッチスクリーンが思考に置き換わり、あなたの神経系がコントローラーになる未来」
すごい進化です。ここでもAIの需要はどんどん高まっていくのですね。
ただ、私は自分の体にチップを埋め込むような未来には少し抵抗を感じてしまいます。自分以外のものにコントロールされてしまう恐怖を感じるからです。(映画の見過ぎでしょうか笑)
でも、これが巨大な投資チャンスに繋がるのなら話は別ですね。
今日もありがとうございました